大切な家族が集中治療室に入院した際に、写真撮影や動画撮影は行っても良いのでしょうか
患者や家族が思い出のために撮ることもあれば、他の家族に見せるために撮りたい気持ちもあるでしょう
しかし、近年プライバシーの問題やSNSの取り扱いなど、厳しい側面も予想されますね
そこで今回は、集中治療室で写真や動画を撮影して良いのか、について解説していきます
集中治療室で写真・動画を撮ってはいけない理由
通常、ほとんどの病院ではICU内での撮影を原則として禁止しています
その理由は以下の通りです
他の患者さんのプライバシー侵害
ICUは原則的に個室の病院が多いですが、カーテンで仕切られている部分や、部屋の半分近くが開放的になっている施設も多いです
比較的仕切りが少ない姫路医療センターのHP
例えばこちらは姫路医療センターのICUはベッドとベッドの間はカーテンで仕切られている仕組みになっており、比較的開放的なお部屋となっています
もちろん家族が面会に来ればこのカーテンは閉めることになりますが、それでもうっかりと隣の部屋の一部が映り込むことは否定できません
これは、他の患者のプライバシーの保護、個人情報保護に関する権利を著しく侵害する行為であり、病院としては、一律禁止とするのが非常に楽なのです
医療スタッフの肖像権と業務への支障
写真・動画撮影によって、医療スタッフが写り込んでしまうことも考えられます
医療スタッフは名札をつけて仕事をしており、無断で撮影されることはプライバシーを侵害する行為にあたります
また、「撮影されている」という意識は、スタッフに過度なプレッシャーを与え、集中して業務を行う妨げになる可能性があります
どれほどベテランの看護師でも、採血の様子を動画で撮影されれば、普段は失敗しないのにうまく採血ができないこともあるでしょう
円滑な業務を遂行するためにも、不必要な撮影は禁止されるべき行為です
情報漏洩・SNSトラブルのリスク
撮影された写真や動画が、SNSなどを通じて意図せず外部に流出するリスクがあります
これは、最も無防備な状態の患者の姿が公開されることで、患者本人の尊厳を深く傷つけることになります
また、被害は患者のみならず医療スタッフでも起こりうることです
SNSで医療スタッフを貶めるような意図がなくても、このような行為は許される行為ではありません
集中治療室で写真を撮ることが許される場合とは?
原則禁止が基本ですが、特定の目的と条件下において、病院側の許可を得て撮影が認められる場合があります。
リハビリの記録
一つ目はリハビリの様子を記録するために行う撮影です
例えば、集中治療室でリハビリを開始した時というのは、ほとんどご自身では動けない、起き上がることすら介助が非常な場合がほとんどです
そのような患者が、自分で起き上がることができるようになり、立つ練習が始まり、歩く練習が始まる様子を記録として残すことができる方法は、写真や動画撮影が最も有効です
また、リハビリを頑張っている様子を記録に収めることは、あまり普段面会に来ることができない親族や友人に共有することで、お互いを勇気づけることができるでしょう
また患者自身も、ある程度回復してきた時に、ICUにいた時の動画を見ると、命が助かった、元気になっているという実感を得ることもできるでしょう
リハビリの記録としての写真・動画撮影は患者・家族の心を癒すために重要な役割を果たします
私はいつも、どんどん動画を撮ってくださいと伝えています
本人が良ければ、ですけどね
ICU日記として
ICU日記とは、集中治療室での治療期間中は多くの患者が記憶が残っていないため、失った記憶を記録として留めておくための、ツールとして利用する、立派な治療法です
なぜ失った記憶を留める必要があるかというと、ICUでの辛い記憶を医療スタッフの思いで塗り替えることで、日常生活に戻った際の精神障害を防ぐことができる可能性があるからです
ICUでの記憶は辛いもので、辛かった、ということしか残らないものです
ICUの医療スタッフは多くの優しい言葉かけ、献身的なケア、励ましの言葉があったとしても、それをはるかに上回る辛い記憶が残ってしまうものなのです
しかし実際はそうではないんだ、みんなが自分のことを思ってくれていたんだ、と思うだけでも、退院後の精神障害(PTSDのようなフラッシュバック)になる確率を減らすことができるのです
そのようなICU日記に使用するための写真撮影は、もちろん許可されますのでご安心ください
ICU日記が、患者の生活の質(QOL)低下や精神症状の発症を抑制することを示した論文

医師からの説明を記録しておくため
あまり多くはありませんが、医師からの説明を記録することを目的に、動画撮影を申し出る家族もいらっしゃいます
医師の顔や個人情報を映すことがなければ、医師から断られることはあまりありません
当然許可は必要です
悪意を持って動画を撮影することがなければ、説明を記録することは可能ですので申し出ていただければと思います
集中治療室で写真・動画を撮る際の注意点
最後に注意点です
これは、なんといっても、医療スタッフに許可をもらうこと、それだけです
医療は信頼関係のもとに成り立っています
患者と医師、患者家族と医療スタッフの信頼がなければ、大切な家族を預けることなどできません
しかし、許可のない写真・動画撮影は医療スタッフとの信頼関係に傷をつけ、治療が円滑に進まなくなることがあります
私の経験をお話しすると、リハビリの様子を無許可で撮影し始めたご家族がいました
基本的にはウェルカムなのですが、患者の撮影というよりは、理学療法士である私の顔、名札、リハビリの様子を撮影しているように感じる動画撮影であり、非常に不愉快でした
どのような目的で使用する動画撮影かは不明でしたが、あまりこの家族とは関わりすぎない方が良いと直感的に感じたため、その他スタッフとも共有した記憶があります
この件は大きなトラブルにはなりませんでしたが、一言いってもらうだけでいいんです
その際に、他の患者が映らないように、SNSにアップしないように、などの注意点をご説明できます
医療スタッフは敵ではありませんので、気軽に声をかけていただければと思います
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