もし家族がICUに入院したら、もし自分が大きな手術を受けるためにICUに入院することになったら、一体何を準備しておくと良いのでしょうか
服や下着、オムツなどの一般的なものは看護師から説明があるでしょう
しかし、ICUで長年働いている理学療法士が、最近のエビデンスに基づいて「これだけは準備しておいた方が良いもの」を解説していきます
集中治療室で必要なもの 1.スマートフォン、携帯電話
集中治療室(ICU)にスマホや携帯を持ち込んではいけない、という勘違いをしている方が多いですが、近年は医師もスマホを見て調べながら診療をすることもありますし、スマホなどの電子機器がICUの精密機械に影響を与えることはありません
むしろ、家族と連絡するために、暇を潰すために、音楽をかけるために、様々な手段にスマホはもはや必須です
体調が悪くても、家族に持たせたスマホにLINEを送り、既読になっただけでも、安心するものです
スマホの中の家族との写真を見るだけでも、患者本人は安心します
またICUは個室ですので、電話も自由にいつでもかけられます
個室ですので、自分を落ち着かせるために音楽を鳴らしても問題ありません
ビデオ通話をして医師からの説明を家族と共有することもできるでしょう
体調が悪いから、スマホは預かっておくね、、、これは患者にとってデメリットしかありません
是非、スマホは持参の上、ICUで過ごしてください
貴重品として、個人情報の観点からも、病院側がきちんと適切に扱いますのでご安心ください
集中治療室で必要なもの 2.眼鏡
二つ目は眼鏡です
まず大前提として、集中治療室でコンタクトレンズを入れることはできません
なぜなら、日常的な診療において、看護師が瞳孔(目にライトを当てて反応を見る)を観察することがあります
この時にコンタクトレンズが入っていると、適切に観察できません
意識がしっかりとしている方でも、急変の恐れがあるからICUにいるので、例外ではありません
そのため、目が悪い方はコンタクトレンズではなく、必ずメガネを着用してください
それでも、細かい字を見るわけでもないし、割れても嫌だから、眼鏡をしなくてもいいよ、という患者様は多くいらっしゃいます
しかし、眼鏡をかけて、視界を鮮明にしておくことは、ICUで治療する上で大きなメリットがあります
それは、せん妄の予防です
せん妄とは、病気が重篤な場合に現れる意識の乱れや注意力の低下を指し、せん妄状態が続くと認知症になりやすくなったり、ICUからなかなか出られなかったり、死亡率が上がるなど、多くの不利益があります(参考文献:DOI: 10.1186/cc7892)
そして、せん妄になりやすい要因に、患者本人の不安、が挙げられます
視界がぼんやりしている中で、どんな点滴をされているかわからない、看護師の顔もはっきり見えない、外の景色もよく見えない、スマホを見ても文字が見えない、これでは患者本人は不安になります
そしてこのような不安がせん妄を助長することがあるのです
そのため、特に高齢者がICUに入院する場合、必ず眼鏡を持参しましょう
もし家族でお見舞いに行く際には、積極的に眼鏡をかけさせて、看護師にも眼鏡をかけるよう依頼しましょう
集中治療室で必要なもの 3.補聴器と補聴器の電池・充電器
3つ目は補聴器です
自宅で補聴器や集音器を使っている方は、必ず持参しましょう
これも、せん妄の予防となります
ただでさえ機械の音がする中で、医師や看護師の声は聞こえづらくなっています
そんな中で、「点滴しますよ」の声が聞こえずに、腕に点滴をプスリ、、、患者様は不安に思ってしまうもの無理はありませんね
夜は外せば良いので、補聴器を看護師に預けてしまえばOKです
そして、最も家族が忘れやすいのが、補聴器の充電器や予備の電池です
補聴器は一般的に1回のフル充電で、約16時間〜30時間しか使えません
これではせっかくの補聴器が数日で使えなくなってしまいます
せん妄を予防するためにも、補聴器とセットで充電器もお願いします
集中治療室で必要なもの 4.入れ歯
4つ目は入れ歯です
集中治療室でご飯なんて食べないでしょ、と思う方もいるかもしれませんが、集中治療室での終盤には食事が出ることが多いです
なぜなら、患者の死亡率を下げるためには、適切な栄養療法が必須だからです
しっかりと栄養を取らないと、感染症を治しきれなかったり、筋肉が減ってしまったり、さらには死亡率が高くなってしまったりと、様々な悪影響があるのです
そのため、入れ歯を忘れたからご飯が食べられない、これは治療が一歩遅れることにつながります
確実に入れ歯を持参するようにして下さい
また、最近のICUではまだ食事が出ていないことが分かっていても、入れ歯を装着するようにしています
なぜなら、入れ歯は装着していないと歯茎がどんどん痩せていき、いざご飯を食べようとした時には入れ歯のサイズが合わなくて、痛みが出ることが頻繁にあるからです
一般的には、入れ歯をつけずに2〜3週間過ごすと、入れ歯は合わなくなってしまい、作り直した必要なようです
また、多くの病院では合わなくなった入れ歯はかかりつけの歯医者で再作成するように促されます
つまり、ICUに入院している病院では作り直してくれません
退院するまでの間、ペースト食や刻み食といった、ドロドロのご飯とおかずを食べる他ないのです
作り直しには保険適応でも15,000円〜20,000円、自費診療では200,000円以上かかることも珍しくありません
私はそのような患者様をたくさん見てきました
部分入れ歯は誤嚥の可能性があり危険ですが、総入れ歯であれば必ず持参して装着させることを勧めます
集中治療室で必要なもの 5.卓上カレンダー
5つ目は卓上カレンダーです
ICUには窓がない病院がほとんどです
そのため、昼と夜の感覚がつきづらいです
ましてや人工呼吸器などをつけていると、痛み止めや鎮静剤という眠り薬を使いながら、声をかけると目が覚めるけれど声をかけなければ目を開けないぐらいを目指して治療を行います
そのため今が朝なのか、昼なのか、夜なのか、さらには何日間ICUにいるのかも分からなくなってくるのです
そして、これがせん妄や認知機能障害に繋がってくるのです
そこで活躍するのが卓上カレンダーです
卓上カレンダーに手術した日や入院した日を記入し、日にちが経つごとにバツをつけていくと良いでしょう
そうすることで、何日に入院して、何日ここにいて、ということが一目で理解できます
こうして、日付の感覚を失わずにICUをすごくことができれば認知機能障害にもなりにくいということです
このような現実を認識させる行為(正確な日時、入院している場所を認識してもらうこと)はせん妄や認知機能障害を予防するという論文は多数報告されています
集中治療室で必要なもの 6.時計
6つ目は時計です
時計の中でも、卓上におけるタイプの時計が良いでしょう
ICUの中にも時計はあるのでは?と考える方もいるでしょうけど、実は時計は患者側からは見えにくいところ(医療者側からは見えやすいところ)に設置されていることがほとんどです

もちろんスマホでもいいのですが、ポイントは、目を開けるだけで時間が見える、ということです
ICUでは抑制をされることもありますし、自分で姿勢を簡単に変えることができない時もあります
そんな時にはスマホを開くこともできないため、目を開けただけで直感的に時間がわかるような卓上時計を購入しておくことをお勧めします
また、PM 11:00 ではなく、23:00 と表示されるようなデジタル時計が理想ですね
ぼーっとしている中でも直観的に時間がわかる、これが大切です
時計が必要な理由は、卓上カレンダーの時と同じですね
集中治療室で必要なもの 7.靴
7つ目は靴です
ICUで歩くことは何のでは?と思う方もいるかもしれませんが、多くのICUでは私のような理学療法士が勤務しており、病気の状態が許せばICUに入った次の日に立つ練習や歩く練習が始まることも珍しくありません
こちらの論文はICUでどれぐらいの人が立つ練習や歩く練習を行っているかを調査した研究ですが、およそ3割の方がICUの中で靴を必要としていることがわかります

黄色、水色、青、緑は靴が必要な患者のパーセントを示しておりますので、3割以上の方が集中治療室に入った翌日からすでに靴が必要なリハビリテーションを開始していますね
つまり緊急入院で集中治療室に入った際も、自宅からの持ち物に靴を忘れずに持っていきましょう
また、リハビリ開始直後はフラフラしたり、つまずきやすい状態ですので、転倒を予防するためにも、普段から履き慣れている、踵のある靴をお勧めします

スリッパは履きやすいですが、転倒の原因がスリッパにある割合が38%という報告もあり、履きやすいからといってスリッパを選択するには、あまりにも危険であるということがわかります
高齢者の転倒転落に占める履き物の影響を示したアンケート報告
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/anzen/test/documents/anzenjyoho_v43_1.pdf
是非とも、履き慣れた、踵のある靴を、入院後すぐに準備することをお勧めします
集中治療室で必要なもの 8.好きな音楽、CD
8つ目は好きな音楽を聴けるようにすることです
集中治療室は静かだと思う方も多いと思いますが、実際は医療者同士の会話、機械の警告音(アラーム音)、機械の動作音がベッド周辺、耳元で聞こえてくるため、音によるストレスは意外と感じるものです
以前の記事で、集中治療室の機械の警告音を紹介していますので、そちらも参考にしてください
そのため、眠りが浅く、あまり休めないという方も多くいらっしゃいます
特に高齢者の入院の場合、スマホを持っていなかったり、テレビを見ることも難しいので、手持ち無沙汰となることも多いです
そこで、活躍するのが好きな音楽をかけることです
集中治療室で音楽なんかかけて治療の邪魔にならないの?と感じる方も多いと思いますが、集中治療室での音楽療法は患者の不安を和らげたり、鎮静剤の量を減らす効果があるという論文もあるほど、注目されている治療なのです
集中治療室での音楽療法は患者の不安を和らげ、鎮静剤の投与量を減らす

では具体的に、どのような音楽が良いのでしょうか
これは一貫した結論は出ていないのですが、個人的には、自宅で普段聞いていた歌、患者本人が口ずさんでいたような歌、そのような音楽がなければ落ち着くようなクラシックが良いと思います
何より患者様が安心して過ごせれば良いわけですから、アップテンポの曲、というよりは、落ち着いた安らげるような音楽が理想でしょう
また、CDやラジカセなど、どのような媒体で流すのが良いか、についてはそれぞれの病院にお問い合わせ頂くのが良いと思います
ちなみに当院では、CDとラジオが聴けるよう、ICU全ての部屋にラジカセが準備されており、演歌やJPOPが流れているお部屋もちらほらありますので、ぜひ相談して頂けると良いですね
集中治療室で必要なもの 9.家族の写真
9つ目は家族写真など、家族の顔が見えるものを準備して欲しいです
集中治療室は面会制限を設けている施設がほとんどですので、会える家族が限定されたり、会える時間が限られていたりと、一般病棟より家族の存在を感じにくい場所です
しかし、本人は痛みや死への恐怖、不安が高まっており、常に精神的に不安定な状態にあると言えます
そのため、本来であれば家族に常にそばにして欲しいのですが、近年の感染対策の強化により、ご家族の方には長く滞在していただくことができない事情もあるのです

そこで常に家族を感じるために家族の写真を準備することをお勧めします
できればベッドでも見えるよう、写真たてに入って、自立している方が良いです
なぜなら患者様はベッドで寝ているもしくは少し体を起こす程度が最も楽な姿勢であり、写真集をペラペラとめくる動きすら辛いと感じる方も多いからです
家族の存在がどのような役割を果たしているかを調査した研究によると、以下のようなポジティブな気持ちが反映されているとされます
- 家族との絆を繋ぎ止める証
- 写真をきっかけにもたらされる喜び
- 回復と回復支援への願いと危惧
集中治療室で体調がすぐれないときこそ、家族との思い出を振り返り、家族との絆を深めるためにも何らかの形で家族の存在を身近に感じることができると、安心して治療に取り組むことができるかもしれません
集中治療室で必要なもの 10.ドライシャンプー
最後に、意外と役立つドライシャンプーです
数日〜数週にわたって集中治療室で治療をしている患者様から最も聞く訴えの一つに、「頭がかゆい」があります
たくさんの管が入っている状態では、お風呂に入ることはおろか、頭をゴシゴシ洗うこともできないのが当たり前になっており、そのかゆみや、どうしようもない不快感を訴える方は非常に多いです
そこで、看護師さんからよく提案されるのが、ドライシャンプーで頭を洗うことです
ドライシャンプーとは、頭を水で洗うわけではないけれど、頭皮のベタつきを抑えたりにおいをマスキングできたりする水のいらないシャンプーのことです
もちろん水でバシャバシャ洗うよりスッキリ度は下がりますが、最近はシートタイプや拭き取りタイプなど様々な商品が開発されており、頭皮をスッキリさせる成分が入っているものも人気があるようです
長期間の入院生活は苦痛がつきものですが、少しでも快適さを味わってもらうためにも、準備して看護師さんに相談してみると、協力してくれると思いますよ
まとめ
いかがだったでしょうか
集中治療室がどんなとこか、が分かってくると、準備するものも自ずと変わってきますよね
もちろん入院した病院によってルールなどはあると思いますが、私の記事を読んで、こういう効果があると聞いたので、音楽流してくれませんか??師長さんに相談してくれませんか??とお願いすると、意外と通ることもあります
ぜひ試してみて、大変なICUでの治療が少しでも快適になることを願っています
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