集中治療室、ICUはどんな場所か想像したことはありますか?
皆さんの大切な家族、友人、もしかしたらあなた自身の命が脅かされた時、
最後の砦となる場所です
私はそんな命の縁で戦う患者さんを元気に退院させるためにICUで理学療法士として働いています
理学療法士の立場から、ICUに入ったら、を想定しながらICUについて解説します
ICU(集中治療室)とは
ICUとは ” Intensive Care Unit” 集中治療室、の略語です
日本の法律では以下のような定義が記載されれいます
ICUとは、集中治療を行うにふさわしい構造設備を有し、常時、医師が室内に勤務し、かつ、重篤な状態にある患者への看護を、看護師が常時患者2人に対し1人以上の割合で行う治療室
ポイントは3つ
集中治療を行うに相応しい専用の構造と設備
ICUには様々な機械が常備されています
患者の呼吸を助ける人工呼吸器、透析が必要な患者のための血液浄化装置、患者の心臓を助けるための心肺補助装置(ECMO,PCPS,IABPなど)がこれに当たります
他にも、緊急の簡単な処置は手術室ではなくICUで行われる場合もあります
例えば、気管切開術や創部の洗浄処置、胸腔ドレナージなどがこれに当たります
そのため、簡単な手術ができるように手術器具も常備されています
ICUでは一分一秒が争われるため、生命維持に必要な高度な医療機器が常に利用できる状態にあります。
集中治療を先導する医師の常時勤務
ICUでは24時間体制で治療が行われます
もちろん予定できる治療は、人手が多い日中に行います
一方で、夜間の急変や夜間の救急患者にも対応する必要があります
そのため、集中治療を専門とする医師、麻酔科医が365日24時間、いつでも対応できる体制が整っています
病院の体勢によっては集中治療を専門とする医師、麻酔科医が常駐していない施設もあります
それは病院がopen ICUか、closed ICUか(その中間のsemi closed ICUもある)、どちらを採用しているかによります
open ICUとは、開かれたICU、つまり、主治医が一般病棟と同じようにICU病棟で治療を行います
このような場合、集中治療室には麻酔科医はおらず、脳外科や心臓外科医が対応することになります
一方、closed ICUは閉ざされたICU、つまり、主治医は治療にあまり関与せず、集中治療を専門にする麻酔科医が治療に当たります
そのため、closed ICUの場合、常に麻酔科医が常駐していることになります
集中治療室を支える、2対1の看護体制
病院に必要な看護師の数は、病院が持つベッドの数や病棟の特性によって決まります
ICUでは付きっきりの看護、のようなイメージがあるかもしれませんが、実態は看護師1人で患者2人を対応することが、最低条件となります
看護師1人でそんな重症患者を2人も対応できるの?と思うかもしれません
実際には、身体抑制をされたり、鎮静管理(薬で眠っている)されていることも多いので、安全に治療が遂行されます
また、一般病棟や療養病棟では以下のような看護師配置が決められています
看護師配置 | 夜勤体制 | 介護士配置 | |
ICU | 1対2 | 1対2以上 | なし |
一般病棟 | 1対7〜15 | 1対15〜20 | なし |
療養病棟 | 1対20 | 1対20〜30 | あり |
こう見ると、ICUがいかにきめ細かい治療がされていることがわかります
HCU、SCUとの違い
集中治療室の中でも病院によっては様々な特性を持ったICUを持つところがあります
これらはICU、集中治療室とは異なり、専門性を持った治療室となります
HCU(高度治療室)
High Care Unit、HCUは高度治療室と呼ばれる重症患者を受け入れる病棟です
HCUには看護師1人で4人を担当する、4:1看護が採用されます
主に、手術を終えた直後の患者や、ICU(集中治療室)からは脱したが一般病棟には行けない患者が滞在します
そのため、ICUよりは比較的重症度が低い患者や、重症だが安定している(一日の中で変動が少ない)患者が対象となります
ICUからHCUに移動になった、と聞けば、患者はよくなっている、と考えて差し支えありません
SCU(脳卒中治療室)
Stroke Care Unit、SCUは脳卒中を専門とした集中治療室です
SCUでは看護師1人で患者3人を担当する、3:1看護が採用されます
主に、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の患者がその対象となります
特に脳卒中は、急変するとすれば発症から48時間に起きることが多いため、その急性気を乗り切ることが重要です
また、脳卒中は早期からのリハビリテーションが重要となるため、多くのリハビリテーションスタッフ(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)がその治療に携わります
入院して48時間以内にリハビリテーションはスタートします
そんなに早くリハビリを開始しても大丈夫?と思いますが、それがSCUの腕の見せ所です
リハビリ科の医師や脳神経科の医師、集中治療科の医師などとコミュニケーションをとりながら、リスクを最小限に、効果を最大限発揮できるよう、リハビリテーションを行います
ICU(集中治療室)の音や景色
ICUってどんなところ?を話す中で、やはり具体的な景色や音がないと想像できませんね
実際の患者様にはどんな音が聞こえて、どんな景色が見えるのかを想像してみましょう
ICUで聞こえる音
ICUでは様々な音が聞こえます
例えば、以下の図は川崎医科大学附属病院のICUのフロアマップです

川崎医科大学附属病院HPより引用 https://h.kawasaki-m.ac.jp/data/dept_102/dept_b_dtl
隣の患者の声
ICUは1〜6ベッドは個室になっており、隣の患者の声が聞こえることはありません
これはどこの病院も同じで、個室のため隣のいびきで眠れない、ということはないです
機械の音
次に機械の音があります
以下の動画は人工呼吸器の音です
特に35秒ぐらいから始まる、危険を感知した警報音(アラーム音)は不快な音です
看護師が早く気づけるようにするために、音も大きめで設定されており、これが患者の耳元でなっているため、患者にとって休まる空間とは言い難いですね
さらに機械が一個とは限りません
人工呼吸器、透析の機械、心電図の音など、機械の数だけ通常の作動音と警告音があります
お見舞いに来た家族にとっても、患者にとっても落ち着く環境とは言い難いです
医療スタッフの声
常駐している医師、患者の数と同じぐらいの看護師、機械を取り扱う臨床工学技士、薬剤を調整する薬剤師、栄養剤を調整する管理栄養士、早期からリハビリを提供する理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、患者の転院先を調整するメディカルソーシャルワーカー、医療費や書類を作成する医療事務、清掃する清掃員、その他多くのスタッフがICUでは働いています
感覚的には患者が10人入院できるICUでは、常に20人近いスタッフが飛び回っています
薬を一つ投与するにも看護師同士の2者確認が必要ですし、一度急変が起きれば大声で人を呼び、緊急処置にあたります
医療者の数だけ会話があり、その多くは患者の耳に届くことでしょう
これだけ多くの、しかも緊張感の音がある中、ゆっくりと休むには耳栓やヘッドフォンなどを準備しておく必要があります
ICUで見える景色
ほとんどの集中治療室には窓がありません
かつてのICUでは病院の構造の中でも最も奥深くに作られました
手術室は温度調節、空調、手術する医師の視界の邪魔にならないために、清潔のためになど様々な理由から、窓がありません
ICUと手術室は非常に近くに作られている施設が多いことから、ICUにも窓がない(作れない)構造になっていることが多いのです
そのため、多くの施設ではICUの景色は殺風景です
管がたくさんあり自分で起き上がることもできないことから、特に天井を見ることしかできないことも多いでしょう

このように、点滴、天井、カーテン、通気口、その程度しか見えないのが現状です
また、病院の天井はなぜか虫が見えるような変な模様(トラバーチン模様)が採用されています

これは病院だけでなく多くの建造物で採用されている、人工の大理石を模したものです
しかし天井しか見えない患者にとっては非常に不愉快で、まさに虫に見える、嫌な模様なのです
外も自由に見ることができず、視線も固定されており、変な模様も見える
患者にとってはあまり良い環境でないため、最近建設されているICUでは窓付きの施設も増えているようです
しかし、そう簡単に建て替えは難しいことから、多くの施設では上の写真のような世界となっています
気になる方は、アイマスクの購入を検討しても良いかもしれません
ICUの1日、24時間
ICUの24時間はどんなスケジュールで動いているでしょうか
もちろん各施設によって異なりますし、急患が来れば忙しさも変わります
それでも大まかなスケジュールを知っておくと参考になるかもしれません
私の病院の24時間
医師 | 看護師などコメディカル | |
8:15〜 | 今日ICUから一般病棟へ移る患者を決める | |
8:30〜 | 多職種全体カンファレンス | 夜勤から日勤への申し送り |
9:00〜11:00前後 | 一人ひとりを個別カンファレンス 今日ICUから一般病棟に移る患者の準備と移動 | 個別カンファレンス 午前のケア 午前のリハビリ |
11:30〜13:30 | 看護師がいなくてもできる処置、検査 | 1時間ずつ交代で休憩 |
13:30〜16:30 | カンファレンスで決めた治療、処置、検査 今日の手術患者への対応 | 午後のリハビリ 今日の手術患者への対応 |
16:30〜17:00 | 夜勤への申し送り | 夜勤への申し送り |
17:00〜21:00 | やり残した治療、処置、検査、急患対応など | やり残した治療、処置、検査、急患対応など |
21:00〜 | 消灯のためトラブル対応 | 消灯のためトラブル対応 患者のケア |
7:45〜 | 各診療科とのカンファレンス開始 |
いかがでしょうか
ここに、面会の対応、患者家族説明、急患の対応や様々なカンファレンスがあります
当院の面会時間は13:00〜20:00ですが、病院によって変わります
また、コロナ以来、面会できる人数や患者との関係性(本人が許可した人しか入れない)、時間にも制限がかかっている病院がほとんどです
これらは事前に確認しておいた方が良いでしょう
面会については事前に電話で確認しておくとスムーズな対応ができる
コメント