集中治療室(ICU)で行う身体抑制は同意した方がいい?

ICUケア(集中治療室)

大切な家族が集中治療室に入院したら、自分がこれから大きな手術を受ける際に集中治療室に入ることになったら、、、必ず説明される同意書があります

それは、身体抑制に関する同意書です

集中治療室では多くの生命に関わる機器に繋がれるため、患者が管を抜いては困ることから、身体抑制を日常的に行います

しかし、同意書、ですので、当然拒否する権利はあるわけです

ここでは、身体抑制がなぜ行われるのか、身体抑制に同意しなかったら・身体抑制をしなかったらどうなってしまうのか、について解説します

集中治療室で身体抑制が必要な理由 3選

集中治療室では身体抑制がほぼ必須であり、治療に必要な戦略の一つです

特に人工呼吸器を装着すると、その違和感は尋常ではありません

身体抑制が必要な理由について解説します

自己抜去の防止

人は無意識に不愉快な部分を触れることがあります

例えば「頭がかゆい」、と思えば、「頭をかこう」と思う前に、すでに頭をかいています

「鼻水が垂れそう」、と思えば、勝手に手で垂れないようにします

人工呼吸器が口から喉元まで入れば、その管は不愉快なものですし、鼻から管が入れば鼻は不愉快に感じます

すると、患者自身は管を抜こうとしなくても、無意識に管に触れ、無意識に数cm抜いてしまうこともあるのです

その数cmが命取りになる程、生命維持装置の管というものは重要であり、ずれないようにテープや糸で縫うなどして固定しているのです

患者に抜こうとする意思があるかどうかは関係なく、自己抜去を予防するために、身体抑制は必要な措置なのです

転落の防止

集中治療室では麻酔の影響や体の限界を超えた辛さのために、患者が意図せず興奮する、せん妄状態になることがあります

このようなとき、高齢の女性であっても、火事場の馬鹿力のような、とんでもない力で興奮し、ベッドから降りようとすることがあります

このような場合、男性スタッフでも落ち着かせることは至難の業です

なぜなら患者自身は命懸けでこの病室から抜け出そうとしたり、逃げ出そうとしているにも関わらず、その患者に怪我をさせずてはならないからです(時に噛まれたりすることもあります)

このように非常に強い力で興奮している患者が暴れないように抑えておくことができるのが、身体抑制です

縛りつけたら余計に辛いのでは、と思う方もいるかもしれませんが、興奮を抑えるよう眠り薬を投与することで落ち着きますので、身体抑制はこのような投薬までの繋ぎの役割も持ちます

ベッドからの転落して骨折することを防ぐためにも、身体抑制は必要な措置なのです

安静の保持

集中治療室では足の付け根から大切な管を入れることがあります

これは大腿動脈という人体の中でも有数の太い血管に、大切な管を入れる必要があるからです

足の付け根の大腿動脈は体表面に近く、管を入れやすい場所であるため、よく使用されるのです

一方、足の付け根に入れた管は、足を曲げてしまうと管ごと曲がってしまい、最悪の場合、血管が破けたり、機械がうまく作動せずに血圧が下がるなどの致命的な状況になることがあるのです

そのような時に、管を入れている足だけ身体抑制をすることがあります

足を曲げられては困るので、足だけ曲げないように抑制しておくのです

こうすることで、安全に治療を遂行できるわけです

集中治療室で身体抑制を行うデメリット 3選

治療には当然デメリットが存在します

デメリットもしっかりと理解した上で治療に臨む必要があります

せん妄の悪化と消えない心の傷

実は、身体抑制はせん妄を悪化させることが知られています

動けない恐怖と混乱が、さらなる興奮と幻覚を生むという悪循環です

この恐怖体験は、退院後も ”PTSD(心的外傷後ストレス障害)” として残り、悪夢やフラッシュバックに苦しむ原因となります

そしてこのような恐怖体験は数年間にわたり患者を苦しめることがあり、論文としても公表されています

苦しい時に身体抑制をされてどうしようもない状況、考えるだけでも恐ろしいですね

そうならないように看護師は最善を尽くしますが、悪い記憶として残ってしまうことも確かに考えられます

床ずれ(褥瘡)の誘発

身体抑制は床ずれが生じないように保護的な材質のもので抑制を行います

しかしそれでも、患者自身が強い力で何度も動かすと、摩擦で怪我をすることがあります

また、抑制をすると上向きで寝ることが増えるため、お尻の骨に床ずれができやすくなります

看護師は床ずれができないように体位変換して対応しますが、それでも起きてしまうのが床ずれです

身体抑制が床ずれを助長することは否めません

人としての尊厳の喪失

これが最も根源的な問題です。

身体を縛り付ける行為は、患者さんの「人としての尊厳」を根本から否定されるように感じます

意思を伝える手段を奪われ、ただ処置をされるだけの存在になる、、、この非人間的な経験は、患者さんの生きる気力さえも削いでしまいます

治療に必要な処置とはいえ、実際に経験した人にしか分からない苦痛があると思います

集中治療室で身体抑制を拒否するとどうなるか

そもそも身体抑制を拒否することはできるのでしょうか

一貫した結論はない、が正解かもしれませんが、当院の医師・看護師に聞いてみました

結論は、身体抑制を拒否するなら安全な治療ができないと判断されるため、身体抑制に同意が得られるまで説得を続けることになる、とのことでした

つまり、拒否するなら治療はできない、しかし医療者側も治療ができないことは望まないので、説得する、という流れですね

拒否できない同意書に意味があるのか、という意見もあると思いますが、私たち医療者からみても、メリットがデメリットを遥かに上回るため、同意を得ないと治療ができないのが本音です

仮に身体抑制をしないで手術→人工呼吸器装着、となると、恐らくすぐに自己抜去され、呼吸ができずに心停止、、、あっという間だと思います

このような経験は日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業からも多数報告が上がっている事実です

集中治療室での身体抑制は治療を成功させるために必要な措置

多くのメリットとデメリットを紹介しましたが、やはり身体抑制は苦痛が強いです

しかし、看護師や私のような理学療法士は、身体抑制を最小限にできるように日々カンファレンスや取り組みを行っています

具体的には、看護師がそばにいられる時間帯は身体抑制を外すこと、リハビリ中は身体抑制を外してしっかりと動くこと、意識がしっかりすれば速やかに身体抑制を撤去することなどが挙げられます

100人が入院すれば100人に行う処置ではありません

患者の認知機能や精神状態、ついている管の種類など、様々な状態を考慮して、医師・看護師・理学療法士などが集まって、身体抑制の必要性についてカンファレンスを日々行っています

必要な処置とはわかってると同時に、やむを得ない、で済ませてはいけない処置であることもわかっています

医療者は敵ではありませんので、お互い歩み寄りの精神で協力して治療に取り組みましょう

ICUケア(集中治療室)
スポンサーリンク
スポンサーリンク
kotachiをフォローする
スポンサーリンク
集中治療室で過ごす患者と家族と医療スタッフを繋ぐブログ

コメント

タイトルとURLをコピーしました