大切な家族が入院したとき、自分が入院したとき、ICUの医師からの説明を聞くことがあるでしょう
緊急の検査や治療の場合は、電話での説明になることもあります
しかし、ICUの環境では緊張していますし、そもそも家族の命がかかっている状況で冷静に説明を聞くことが難しいのは、容易に想像できます
そして、説明を聞き終わると、他の家族から、「どんな話だった?」「家族の状態はどう?」と必ず聞かれるのですが、なかなかうまく答えられないのです
このように、医師とうまく話せないことが予想されるため、あらかじめ対策をしておくと良いでしょう
ICU(集中治療室)の医師は頭が良い、そして忙しい
当たり前ですが、医師は頭が良いです
そして医師は専門用語をたくさん使います
さらに、専門用語が英語だったり、略語だったりします
例えば、「お父様の心不全の原因は心房細動という不整脈でしたので、カテーテルでアブレーションという治療をします。」という話をされます
私は毎日ICUで働いているので普通の会話だと思いますが、皆さんはカテーテル?アブレーション?そもそも心房細動ってどんな不整脈?アブレーションしか治療法はないの?など、前提となる言葉の意味を理解することも難しいですよね
そして最後に、「何か質問はありますか?」と聞かれて、よくわからないので「よろしくお願いします」と言ってしまうのです
また、医師は忙しいです
集中治療室での医師の1日、24時間については以前にまとめたのでそちらをご参照ください。
人は忙しいと、話し方が雑になります
人は忙しいと、話し方も早口になります
これらは医師に限った事ではありませんが、本当に忙しいと無意識にそうなってしまうものです
一方で、医師の大切な仕事に、患者家族に丁寧な説明を行い、治療の同意を得ること、があります
受身の治療ではなく、前向きに治療に取り組んでもらうためにも、多くの医師は丁寧な説明を心がけており、当院の医師もこの家族とは3日話せてないから、そろそろ話さないと、という会話もあります
忙しい中、家族に丁寧に説明する時間を設けようと日々努力していることは、ICUで働く我々が日々見かけている光景であります
ICU(集中治療室)での説明会は事前に予約できると良い
先ほども述べましたが、多くの医師は家族に丁寧に説明する時間を設けようと努力している一方、本当に毎日が忙しいです
そこで有効になってくるのが、事前予約です
予約なんてできるの?と思うかもしれませんが、医療者側としては、急に言われるよりもスケジュールを管理しやすくてありがたいのです
事前に予約したい時には看護師でも良いので、以下のように伝えてください
現在の状態を詳しく説明して頂きたいのですが、事前に時間を指定しておくことはできますか?その方が家族が集まりやすくて助かります
この言葉を聞いて、いや時間ないので、という医師はいません
さらに、事前予約で説明会を開いてもらえるもう一つのメリットは、立ち話では終わらないことです
忙しい中での立ち話は、丁寧な説明にはなりにくいです
一方、予約して説明、となると、椅子に座って、パソコンでカルテを見せながら、個室で、といった座談会のような形の説明になることが多いです
たとえ時間が短かったとしても、落ち着いて聞きやすい環境になると、質問もしやすくなるでしょう
ICU(集中治療室)で説明を聞くときは、その他家族とビデオ通話がお勧め
何度も言いますが、落ち着いて説明を聞くことすら難しい精神状態で、説明内容を記憶することは難しいです
そして説明を聞くからには、その説明をあなた以外の家族に正確に伝えられるのも大切なことです
そこで皆さんがはじめに思いつくのが、録音(ボイスメモ)です
しかし、録音はあまり良い手段ではありません
ICU(集中治療室)で説明を聞くときは録音すると良い?
やましいことがなければ録音しても良いじゃないか、と思うかもしれませんが、それは仰る通りです
しかし、人間の感情として、録音されることで緊張します
私も医師の説明に同席している時に録音しても良いですか?と言われ、了解のもと説明会に参加したことがありますが、その時に感じたのは、緊張、というよりは、私が話す言葉に普段より説得力がないな、と感じました
なぜなら、録音されているが故に、いい加減なことは言えない、経験則より事実ベースで話そう、正確でない予想は言わない方が無難、というような思考が働くからです
普段の口頭での説明であれば、「通常であれば今回の手術では1週間で歩けるようになって2週間で退院となりますが、〜さんの場合は高齢ですし、他の病気もありますので、3週間ぐらいを想定しています」
というところを、録音されているとなると、
「通常であれば今回の手術では1週間で歩けるようになって2週間で退院となりますが、〜さんの場合は高齢ですし、他の病気もありますので、少し長めの入院を想定しています」
というように、正確な数字で表現しにくくなります
録音、という行為は、いつまでも記録に残る行為です
録音されても問題ないのですが、録音されることで、経験則からくる表現を伝えにくくなるので、その辺りも考慮した上で、録音されると良いでしょう
また、事前に許可なく録音されると、医療者からの信頼が揺らぎます
もし録音される場合は、事前に許可を取ることを推奨します
事前に許可を得て録音することは全く問題ない
ただ録音されることで、医師の説明が防衛的な説明にならざるを得ないこともあり、注意が必要
ICU(集中治療室)で説明を聞くときはその他家族とビデオ通話すると良い?
まずはじめに、医師からの説明を1人で聞くことはお勧めできません
それほど近い親戚でなくても、大切な家族のことですから、情報は複数人で共有した方が良いです
家族が倒れた時には心労もありますので、その他家族からのサポートを得るためにも、1人で抱えないことが大切です
しかし、現在のような核家族時代に、親戚一同が集まることも難しいと思います
そこで活躍するのがビデオ通話です
ビデオ通話を選択すべき理由を3つ紹介します
遠方の家族や仕事が忙しい家族も出席しやすい
ICUで働いていて多く耳にするのが、仕事が忙しい、家族が遠方で面会に来られないこと、です
しかし、事前予約をとった説明会に、ビデオ通話で参加、であれば参加しやすいです
なぜなら、仕事が忙しくても上司に掛け合いやすいからです
「家族が入院していて医師からの説明を聞きたいのですが、明日の15:00から30分程度、仕事を抜けさせてもらえませんか」そう言われれば、最近の職場ではOKがもらいやすいのではないでしょうか
顔が見えると医師も家族もお互い安心できる
病院は信頼関係で成り立っています
大切な家族を預け、負荷のかかる治療を依頼する
医師はその期待に応えられるよう、懸命に治療をする
しかしその中で信頼が崩れそうになること、納得がいかないこともあるかもしれません
そんな時に、電話だけで説明を聞くより、対面で、あるいはビデオ通話で、顔が見えると感じ方も変わってきます
なぜなら電話では相手の表情は読み取れず、どうしても一方的な説明に終わってしまうからです
ビデオ通話であれば、家族が涙ぐむ様子、視線を背けてしまう様子、うつむいてしまう様子が見て取れます
そんな姿が見えれば、医師からの一方的な説明から、対話に変わるのです
お互いの信頼関係のためにも、顔が見えるビデオ通話がお勧めです
ビデオ通話であれば、多くの家族が参加することができる
最後に、ビデオ通話では参加できる人数が圧倒的に増やせることです
最近のICUで意外と多いのが、80歳〜90歳の両親に、ICUに入院している50〜60歳の息子・娘の状況を説明する場面です
80歳の両親は病院まで来ることができないし、key personにも関わらず、説明をしても全てをすぐに理解することは難しく、その他家族に現状をうまく伝えられないのです
これではご両親も、その他家族にも、患者本人にも全くメリットがありません
そこで、他の親戚に登場してもらい、80〜90歳のご両親とビデオ通話することで、多くの家族が説明を同時に聞くことができ、一度ではご理解頂けなかった説明も、なんとかわかってくれることがあるのです
ビデオ通話はLINEのグループ通話で十分
最後に具体的なビデオ通話の方法です
最近はZoomや Microsoft Teamsなどさまざまなツールがありますが、最も親しみのあるのはLINEでしょう
そして、ビデオ通話をするのはLINEで十分です
まずはLINEの家族のグループを作成し、一番上の電話マークをタップし、「ビデオ通話📹」をタップするだけです

医師の説明を聞く家族が1名、後の皆さんは遠方からでも参加できます
これで医師の顔を見ながら、家族全員が安心して説明を聞くことができますね
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