「COPDのリハビリって、結局なにをすればいいんですか」
後輩に聞かれて、いちばん答えに困っていた質問です。呼吸練習をやればいいのか、歩かせればいいのか。私も最初は口すぼめ呼吸を教えて終わりにしていました
結論を先に書きます。呼吸リハビリテーションの中核は、下肢の持久力トレーニングです。呼吸練習は補助であって、本体ではありません。ここを取り違えると、時間をかけたわりに何も変わらないという結果になります
COPDは呼吸療法認定士の試験でも最頻出のテーマです。臨床でも試験でも、まずは病態から入るのが近道でした
COPDは、試験でいちばん問われるテーマです
病態、呼吸機能検査、酸素療法、呼吸リハ。COPDはあらゆる項目に顔を出します。
全8章315問の呼吸療法認定士 試験対策アプリを作りました。インストール不要で、スマホのブラウザでそのまま解けます。
※ デモ版は第1章の10問のみ
なぜ動くと苦しいのか
COPDの人が動くと苦しくなる理由を、「肺が悪いから」で終わらせないでほしいと思っています。本当の主役は動的肺過膨張です
COPDでは気道が狭く、息を吐くのに時間がかかります。安静時はゆっくり吐けるので問題になりません
ところが動き始めると呼吸が速くなります。すると吐ききる前に次の吸気が始まる。吐き残しが少しずつ積み重なって、肺が膨らんだ状態のまま呼吸することになります
肺には天井(TLC)があります。膨らんだ分だけ吸える幅(吸気容量=IC)が減る。息を吸いたいのに吸えない、という状態です。これが労作時の息苦しさの正体です
ここが分かると、介入が変わります
苦しいのは「酸素が足りないから」だけではありません。吐ききれていないからでもあります。
だから呼気を助ける介入が効く。口すぼめ呼吸も、動作を分けてゆっくりやることも、すべて「吐く時間を確保する」ための工夫です。酸素を上げるだけでは解決しません。
口すぼめ呼吸が効く理由
COPDのリハビリといえばこれ、という位置づけですが、なぜ効くのかを説明できる人は意外と少ないです
COPDでは肺の弾性が落ちていて、呼気のときに末梢の気道がつぶれます。つぶれると空気が出られなくなり、ますます吐けません
口をすぼめて吐くと、気道内に圧が残ります。この圧が内側から気道を支えて、つぶれるのを防ぎます。結果として呼気が長くなり、吐き残しが減る。動的肺過膨張への直接の対策になっています
だから吸う時間の2〜3倍かけて吐くのが目安です。息を止めさせない、力ませない。これだけで労作時の呼吸困難が変わる人がいます
呼吸リハビリテーションの中身
プログラムは大きく4つの柱でできています
| 柱 | 中身 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 運動療法 | 下肢の持久力トレーニング、上肢トレーニング、筋力トレーニング | 中核。ここが本体 |
| コンディショニング | 口すぼめ呼吸、呼吸介助、リラクセーション、排痰、胸郭可動域 | 運動療法を行うための準備 |
| ADLトレーニング | 息切れしにくい動作の練習(入浴、更衣、階段) | 生活に落とし込む |
| 患者教育・栄養・心理 | 禁煙、吸入手技、増悪時の対応、栄養、不安への対応 | 継続を支える |
順番が大事です。コンディショニングは運動療法の準備であって、それ自体がゴールではありません。呼吸練習だけで20分使って終わり、というプログラムでは運動耐容能は上がりません
とくにエビデンスが強いのが下肢の持久力トレーニングです。歩行、自転車エルゴメータ、トレッドミル。呼吸リハの効果を示した研究の多くは、ここを中心に組まれています
強度と期間の目安
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 強度 | 修正Borgスケールで3〜5(ややきつい〜きつい)/Borg 6-20なら11〜13 |
| 頻度 | 週2〜3回以上 |
| 期間 | 最低でも6〜8週。短いと効果が出にくい |
| 1回の時間 | 20〜30分の持久力トレーニングを目安に |
| 中止の目安 | SpO₂ 90%未満、強い呼吸困難、めまい、下肢の強い疲労 |
現場で悩むのが強度設定です。息切れを恐れて楽すぎる負荷にすると、効果は出ません。息が切れること自体は避けるべきものではなく、切れ方をコントロールするのがこちらの仕事だと思っています
低酸素になる人には酸素を流しながら運動する選択肢があります。酸素があれば同じ運動をより長く続けられるので、結果的にトレーニング量が確保できます。SpO₂を保てないから中止、で終わらせないことです
評価はこの3つで足りる
| 何を見るか | 使うもの | ポイント |
|---|---|---|
| 呼吸困難 | mMRC(0〜4)、CAT | 日常生活のどこで困っているかが分かる |
| 運動耐容能 | 6分間歩行試験(6MWD)、シャトルウォーキングテスト | 前後比較でいちばん使いやすい |
| 栄養 | BMI、%IBW | 低体重は予後不良。運動だけでは足りない |
6分間歩行試験では距離だけでなくSpO₂の下がり方を必ず見ます。90%未満まで下がる、または4%以上低下するなら、労作時低酸素血症として扱います。歩行距離が同じでも、酸素が落ちる人と落ちない人ではやることが変わります
栄養を落とさないでください。COPDは呼吸に使うエネルギーが大きく、痩せていく病気です。体重が減っている人にいくら運動を足しても、筋肉は増えません
呼吸リハで何が良くなるのか
正直に書いておきます。呼吸リハビリテーションで肺機能そのものは良くなりません。FEV₁は変わらない、というのが前提です
それでも強く推奨されているのは、肺以外がすべて良くなるからです
| 変わるもの | 中身 |
|---|---|
| 運動耐容能 | 歩行距離が伸びる。生活の行動範囲が広がる |
| 呼吸困難 | 同じ動作での息切れが軽くなる |
| QOL | できることが増え、外に出られるようになる |
| 入院 | 増悪後のプログラムで入院が減るとされている |
| 不安・抑うつ | 息切れへの恐怖が減る |
肺は変わらないのに息切れが減るのは、筋肉が効率よく酸素を使えるようになり、同じ仕事に必要な換気量が減るからです。肺を治すのではなく、肺への要求を下げる。これが呼吸リハの理屈です
いちばん断ちたいのは悪循環
COPDの患者さんは、たいていこの輪の中にいます
息切れの悪循環
動くと息が切れる → 動かなくなる → 筋力と持久力が落ちる → 同じ動作でもっと息が切れる → もっと動かなくなる
この輪の中では、肺が悪くなっていなくても症状は進みます。
だから呼吸リハの本質は、肺の治療ではなく、この輪を断つことだと思っています。運動療法が中核に置かれているのは、輪の「筋力と持久力が落ちる」ところに直接効くからです
患者さんに説明するときも、この図を口で説明します。「動かないでいるほうが、あとで苦しくなりますよ」と伝えると、納得して続けてくれる人が増えます。息切れは避けるべきものではなく、付き合っていくものだと理解してもらうところからです
進め方は施設ごとに基準があります。ここに書いたのは考え方であって、実際の判断は必ず主治医と施設の基準に従ってください
試験ではこう問われます
COPDの病態に直結する問題を、アプリの第1章から1問置いておきます
Q. 肺コンプライアンス(Cs)に関する記述で正しいのはどれか。
1. 気道閉塞が強いほどコンプライアンスは低下する
2. 気道抵抗はコンプライアンスと同義である
3. 肺線維症ではコンプライアンスが高くなる
4. 肺コンプライアンスは肺の硬さの指標である
5. コンプライアンスは圧変化に対する容量変化の比である
答え:5
コンプライアンス = ΔV/ΔP で表される「伸びやすさ」の指標です。肺線維症のように肺が硬くなると低下し、COPD(肺気腫型)では弾性が失われるため増加します。選択肢4は「硬さ」と書いているため誤り(伸びやすさの指標です)。この弾性の低下こそが、呼気時に気道がつぶれて吐けなくなる原因につながります。
COPDは診断基準(1秒率70%未満)、酸素療法、NPPV、呼吸リハと、あらゆる項目から問われます。範囲全体の優先順位は別記事にまとめました
出典
COPDの病態、呼吸リハビリテーションの構成・強度・期間・評価指標は、呼吸リハビリテーションに関する国内のステートメントおよびガイドライン、ならびに3学会合同呼吸療法認定士 認定講習会テキストの内容に基づいて記載しています。
試験範囲としての位置づけは公益財団法人医療機器センターの公表資料によります。
・第31回3学会合同呼吸療法認定士 認定講習会及び認定試験
図は解説のために作成した模式図です。運動処方および中止基準は必ず主治医および施設の基準に従ってください。
著者:こたち(りよたろ)。3学会合同呼吸療法認定士/認定理学療法士(呼吸器)/心臓リハビリテーション指導士/腎臓リハビリテーション指導士。急性期病院のICUで13年、呼吸療法の現場にいます。
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